後悔日誌の更新となります。
今回は保護された当日の記録です。
※書いていた日記を基に伝えやすくした文章にしています。
そのため説明文的になりがちで、敬語ではありません。
ご容赦ください。
令和2年 3/19
時間:17:30頃
交番での聞き取り情報から
「自身の名前」「年齢」「親族、家族」「誰かの連絡先」は一切不明。
自分がわかる範囲の記憶としては、浜辺を走っていたこと。
その浜辺から交番までの道のり、交番への道のりを子連れの女性に尋ねたこと。
それ以外の物は一切分からない状態。
当時の服装は
「薄手のシャツ」「灰色のパーカー」「青色のジーンズ」「黒の靴下」
持ち物は「ショルダーバッグ」のみ
中には「財布」と「少し傷んだロープ」
※財布の中には1,600円程、身分証の類やレシートなどは一切なし。
非常に強いパニック症状を発症していて、過呼吸により手足の痺れ、視界がぼやける
首周りの痛み、そしてとにかく「悲しい」という感情を強く訴える。
といった症状があったため、警察官の判断にて病院に救急搬送される。
同日18:30位?
病院での検査、聞き取りの結果「過呼吸発作」「記憶に障害ありの疑い」との診断受ける。
検査が終了する頃には過呼吸の症状は回復。
詳しい事情を聴取するため、警察官が2人病院にやってきた。
いくつかの質問を受け、自分の知っている限りの情報を全て話す。
「爪は綺麗に整っている」という理由から「文化的な生活を送っていた人」
「服装が軽装」という理由から「当日暑かったため、熱海に来たのは1、2日以内」
「靴の裏の汚れ具合」から「電車か車でここまできた」
様々な情報から推測を立ててくれて、本当にすごいと思った。
見た目から推測して年齢は20代前半。
酔っている様子や、薬物を使用した跡も無い。
目立った外傷は無いことから、事件性は無し。
しかし、首周りについた傷は特に気にしていた。
質問に答えていくと、現在の自信の状況や名前といった記憶はないものの
一般的な知識・・・例えば行ったことがあるかは別として都道府県名。
シャープペンの使い方、現在の総理大臣、コロナウィルスについて。
そういった知識は残っている事に加え、新しい情報を覚える能力。
例えば「自己紹介をしてくれた救急隊員の名前を覚える」
といった事に関しては何の問題もなかった。
これには「本当に良かった、せめてもの救いだよ」
と駆け付けた警察官も喜んでくれていた。
一連の検査や聞き取りが終わると、
「さらに詳しい聴取と捜索の開始」のため警察署に移動することになった。
同日20:00位?
警察署に到着。
移動中の車内では、今にも泣きだしそうな顔を自分がしていたのか、
「パトカーの乗り心地はどう?悪いことしてなきゃ乗り心地いいでしょ?」
等、警察官の方が絶えず気を使って話しかけてくれた。
その優しさがとても嬉しかった。
警察署に到着と同時に、4人程に囲まれて詳しい聴取と身体検査を受ける。
病院で聞かれたのと同じ質問もあれば
テーブルを指さされ「あれはなに?」といった物まで。
自分の知っていること、分かっている事は全て正直に話し協力した。
身体検査では服や靴のメーカー、爪の間、パンツの中こそ見られなかったが
ほぼ全身を隈なく検査された。
話し方に訛りがない。
敬語を適切に使える。
そういった細かい部分まで真剣に分析をしてくれていた。
※首の傷については全員が触れなかった。
今思うと、もしかしたら分かっていたが伝えない優しさだったのかも知れない。
所持品は一度、証拠品として預かられ写真を撮ってもらい
最後に自分の背丈が分かるような全体像と、顔のアップ。
足元の写真を撮られて聞き取りは終了した。
これから全国の警察署のデータベースに、直近で自分の特徴と一致する捜索願が出ていないかを調べるために必要らしい。
それと同時に今の自分は「存在が証明できない状態」である事
「助けてあげたいが警察署では生活の援助ができない」
といった事を説明され、市役所に管轄が移るという事を説明された。
すぐに迎えが来るそうだ。
市役所の職員が来るまでの間、必ず誰かが近くに付き添ってくれ
気を遣うように話しかけてくれた。
「疲れていないか?クッションをもってこようか?」
「喉は乾いていないか?」
警察の人は本当に優しかった。
同日21:00頃?
市役所の職員が自分を迎えにきた。
※今後、自分が立ち直るまで本当にお世話になるKさんである。
Kさんは深い事情を聞かず「大変だったね、おなかすいてない?」とだけ言い
カロリーメイトをくれた。
そして書類に何枚かサインをすると、車まで案内してくれた。
「今はまず、身体を休めよう。これからお世話になれる場所に案内するからね」
Kさんはそういうと車は走り出した。
市街地を離れ、とにかく山の中へ。
雨も降ってきて、土砂降りになってきて、霧で視界は狭くなる。
それでも山へ山へと入っていった。
「正直、これからどうなるんだろう?」と不安で押しつぶされそうだった・・・
同日22:00頃?
保護施設到着
周りは真っ暗闇。
土砂降りの雨の中を駐車場から少し歩くと、とても大きな民家といった感じの建物に着いた。
身元不明、得体の知れない自分を受け入れてくれる場所らしい。
※施設は今後、「保護施設」で統一します。
Kさんがどこかへ電話をすると、保護施設の玄関が開いた。
中からは長身の男性がでてきて、夜遅くというのに笑顔で出迎えてくれた。
Kさんの呼び方から察するに、どうやらここの「社長さん」らしい。
「少し話をしてくるから待っててね」というとKさんと社長はロビーから消えていった。
ざっとロビーを見渡すと、むき出しの配管、破れた壁紙。
見た限り建物は結構な老朽化が進んでおり、廊下は暗くてよく見えない。
ここがどんな施設なのかは検討もつかなかった。
そして施設の中は怖いくらいに静まり返っている。
少しロビーで待たされていると、別室でKさんが社長に状況を全て説明してくれていたらしい。
社長は「大変だったね、とにかく今日はもう休みなさい」と建物の地下に案内をしてくれた。
途中真っ暗でよく見えなかったが、結構な数のベッドが見えた気がする。
自分は奥の奥の部屋の角のベッドを与えられた。
Kさんは深夜にも関わらずここまで手配してくれ、
社長はそれに直ぐに応じてくれた。
本当に感謝しなければならない。
「さぁお休みなさい。明日以降で、また詳しく話そう。」
そう言うとKさんと社長の二人は去っていった。
足がはみ出るほど、小さなベッドではあったが今の自分には十分過ぎる。
こうして自分の後悔の日々、初日が終わった。